第25回日本CT検診学会学術集会の開催にあたって

第25回日本CT検診学会学術大会大会長 和田 真一 第25回日本CT検診学会学術集会大会長
新潟大学医歯学系保健学系列
放射線技術科学(医学物理学)分野
教授 和田 眞一

第25回日本CT検診学会学術大会を2018年2月9日(金)-10日(土)の両日、新潟市内,新潟グランドホテルにおいて開催させて頂くことになりました。大変光栄に存じますとともに、この機会を与えて下さいました会員・学会役員の皆さま方に厚く御礼申し上げます。

低線量胸部CT検診は、1990年に(故)館野之男名誉会長、飯沼武・松本徹、両名誉会員らにより世界に先駆けて提案され、それをもとに、1994年2月に胸部CT検診研究会が設立されて、第1回学術集会が開催されたのが、本学会学術大会の始まりでした。以来25年間、年1回の学術大会が開催され本大会に至っています。

ご承知のとおり、米国では、大規模RCT-National Lung Screening Trial(NLST)の結果(2011年)をもとに低線量CT検診が肺がん死亡低減に有効として2015年CMSにより公的検診に含められ、また、2017年12月にはヨーロッパでもそれに向けた準備が進められようとしています。

ここに至る経緯を顧みますと、1996年に金子らがRadiologyに、続いて1998年に曽根らがLancetに、それぞれ低線量CT検診の優れた早期肺がん検出能を報告し、1999年HenschkeらのLancet論文によるELCAP (Early Lung Cancer Project)報告へと続きました。このことは、低線量肺がんCT検診RCTの実行可能性を報告した論文(Radiology,Vol.225, 506-510,2002)に、『1990年代初期にJapanese Anti-Lung Cancer Association (ALCA)が肺がん検出に低線量CT検診を導入し、1992年に米国でELCAPが設立され、ALCAとELCAPの知見がCT検診の優れた早期がん検出能を明確に示した。ALCAとELCAP studyでは約80-95%がstageⅠで発見された』と紹介され、2002年米国国立がん研究所 (NCI)を中心としたCT検診と胸部X線写真の全米大規模比較試験NLST開始の根拠となったことを記録に残しています。NLSTの結果は、2011年8月にNEJM誌に発表され、CT検診による肺がん死亡率減少が世界で初めてRCTにより実証されました。同年に発表されたNLST研究グループ論文(Radiology,2011,Jan)は、日本における低線量CT検診への広範な関心と研究がNLSTの立ち上げに寄与したことを曽根ら(Br.J.Cancer,2001),名和ら(Chest, 2002),祖父江ら(J.Clin.Oncol.2002)の3編の論文を表掲載して取り上げています。これらは1993年〜2000年に実施された低線量胸部CT検診の成果に基づいて報告されたものであり、本学会の学術大会でも報告されました。本学会が世界の肺がんCT検診の歴史に果たした重要な役割の証と言えます。

そして、2017年4月には、ITALUNGトライアルの結果、対象症例数の限界により統計的有意とはならなかったものの、データの一貫性から、CT検診受診者における、肺がん死亡率及び全死亡率の減少を示唆したと結論し、NLSTに次ぐ結果報告と目され、更に、懸念事項となっていたoverdiagnosisの回避が検診結果に示されたとしても注目されました(Thorax, 2017,April)。そして、2017年12月には、LANCET ONCOLOGYにEU-Position Statementとして、『Lung cancer screening with low-dose CT can save lives, and this method will probably embraced by national health organisations throughout Europe in the future. The results from the US-NLST on reduced lung cancer mortality and from seven pilot trials within Europe on other aspects of low-dose CT screening have provided sufficient evidence for Europe to start planning for lung cancer screening while mortality data from the NELSON trial are awaited.』と冒頭に述べ、NELSON trialの死亡率データの結果を待つことなく、CT検診の開始を計画するに十分なエビデンスが既に得られているとする見解に始まるこのPolicy Reviewを、EUでRCTを実施する8ヵ国のエキスパートの合意文章として発行しました。LANCET ONCOLOGYは、ご承知のとおり、インパクトファクタ:33.9;Oncology分野内ランク3位/217の学術誌であります(Web of Scienceより)。

この様にして迎える、第25回日本CT検診学会学術大会では、大会テーマを『高精度CT検診の普及とがん死亡の減少をめざして』とさせて頂きました。胸部CT検診の科学的エビデンスが蓄積される中で、高精度なCT検診の普及は常に重要なテーマであると考えます。これまでも様々な角度から追求されてきたこの大会テーマのもとに、特別講演:2題、シンポジウム2セッション:、3企業の提供によるランチョン・イブニングセミナー、そして、6演題群合計32演題の最新研究成果が一般演題として発表されます。

特別講演1では、1回照射により根治を目指す重粒子線治療の最新研究成果をQST放医研の山本直敬先生にご講演頂きます。また特別講演2では、第18回世界肺癌学会(横浜)メインシンポジウムのDr. CI.Henschkeの講演情報を、I-ELCAP Investigatorとして曽根脩輔先生と共に日本から参画している、花岡孝臣先生にI-ELCAPが20年間に明らかにし得たEvidenceが何を意味するかについてご解説頂きます。

シンポジウム1では、肺がんCT検診認定機構の現状と今後について、認定機構金子代表理事、山口理事を座長に、4名のシンポジストからご発表頂き、今後の認定制度のあり方についてご議論頂きます。このシンポジウムに関連した一般演題群の最新研究成果に関連した議論の深化にも期待したいと思います。また、CT検診認定医、認定技師、認定施設の制度的深化には、Computer Aided Detection/ Diagnosis (CAD)が将来重要な役割を担うであろうと考えられ、CADの現状、そして、そのQA(Quality Assurance)についても、一般演題群の発表をもとに、議論されることを期待致します。シンポジウム2では、「低線量肺がんCT検診Update2017」として、中山富雄先生、佐川元保先生を座長に、4名のシンポジストによる5題の発表をもとに肺がんCT検診の今後について議論して頂きます。2017年10月、世界肺癌学会が横浜で開催され、CT検診メインシンポジウム、一般講演の発表と議論がされました。今日、世界のこの分野のエキスパートが肺がん死亡にどう立ち向かおうとしているのか、その様な観点からも、十分に議論を深めて頂ければと願います。

石綿関連疾患やCOPD、循環器疾患など肺がん以外の胸部疾患に対するCT検診の重要性についても、議論が深められることを期待しております。更に、CTコロノグラフィについてはイブニングセミナー、一般演題を合わせて10演題の発表がされ、その普及に期待が寄せられています。

本学術集会が、ここまでの本学会の歩みを振り返り、次の4半世紀に向けて日本CT検診学会が果たすべき役割について大いに語り合う、そのような、学術交流の場として頂くことを心から願っております。


なお、本会誌抄録集号には、曽根脩輔先生の、松本市医師会報・長野医報の最近の既報論説文を、特別許諾転載させて頂きました。1998年のSone SらのLancet論文を契機に、I-ELCAPに参画して重要な役割を果たして成し得た20余年に及ぶ貴重な研究成果を集約した論説文であり、本学術大会での議論の資料として十分にご活用頂けることを願っております。

特別転載論文1

肺がんを早期発見できる低X線曝射CT検診;20年余の普及活動から
(松本市医師会報2017年10月号(593号)より許諾転載
曽根脩輔(信州大学名誉教授(放射線医学))

特別転載論文2

肺がんの早期発見を可能にする低線量胸部CT検診の自治体での効率的実施にむけて
(長野医報(2016)648,649,649,650号論文からの抜粋と補筆)
曽根脩輔(信州大学名誉教授(放射線医学))

参照:CT検診,Vol.25,No.1,2018(第25回日本CT検診学会学術集会抄録集)